私たちが音楽を聴く場合、最も注目しやすく、キャッチしやすいのはメロディーであるかと思いますが、音楽の要素はメロディだけではありません。
前回ご紹介した「G線上のアリア」はメロディが際立った曲でした。確かにバッハは素晴らしいメロディを書いた人ではありますが、メロディだけの人ではありません。
そこで今回は、メロディとは別の側面が現れたバッハの名曲「平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番 前奏曲とフーガ」を取り上げます。この曲は「前奏曲」と「フーガ」の部分に分かれるのですが、今回特にご紹介したいのは「前奏曲」の部分です。
この曲を聴いたことがある人は多いのではないでしょうか。この曲に流れているものがメロディーだと思いますか?一聴するとメロディのように感じる方もいるかもしれませんが、これは厳密に言えばメロディーではないですね。
これは何というか。。。音の配列です。音の配列が少しづつ、微妙に変化していくのがわかるのではないかと思います。管理人は、なんだか、とても数学的、幾何学的な印象を受けます。
この曲は、演奏にもよりますが、およそ2分弱の長さです。その中で、音の配列が、微妙に、とても微妙に、少しづつ淡い色彩でもって変化していきます。そして1分を過ぎたあたりでしょうか。。。なんだか次第にディープなっていく印象を受けます。
あくまでも管理人の印象ですが、譬えて言えば、海の比較的浅瀬を泳いでいたイルカが、少しづつ深く海を潜っていく感じというか。
そして、はからずも異次元のポイントのごく近くまで行ってしまいそうになる。もう少し近づくと、この世ではない場所に入ってしまいそうな感じなんですね。でもそこには入り込まずに、ぎりぎりのポイントをしばし逡巡した後、そこから少しづつ浅瀬に引き返していくというか。そして最後の最後に海から顔を出す、という感じかな。現実の世界に戻ってきたんだねー、と少しほっとします。
先ほども申し上げた通り、演奏にもよりますが、およそたった2分弱の曲です。たった2分の中に神秘がある。バッハのとてつもない天才が如実に現れた一曲と言えるのではないでしょうか。
この曲にも本当に様々な演奏がありますが、この曲の神秘を表現した演奏としては。。。管理人はスヴァストラフ・リヒテルの演奏を好んで聴いています。